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『コンプライアンス体制』のつくり方
弁護士 中村浩士のコラム |
1 前回は、そもそもコンプライアンスとは何か、端的にイメージをもっていただくためのお話をしました。
要するに、不祥事が起きたならば、包み隠さずに全てのうみを出し切ることが企業再生への第一歩であることを説明しました。
2 ただ、問題は、そのような不祥事が起きないためにはいかなる予防策を講じておくかという点にあります。
うみを出さずに隠そうとすれば、間違いなくその企業はいずれどこかで破滅への道を辿ることになるでしょうし、うみを出したとしても、やはり消費者・国民から許されなければ同様の道を歩むことになります。
3 さて、会社の不祥事とは、一般的には、民事・刑事でのいわゆる「過失」を問われるような、会社の管理ミス等の落ち度が原因で消費者の信頼を裏切る問題が発生したことを差すのが一般的です。
では、企業は一体どのような場合に民事・刑事での責任を問われることになるのでしょうか?
4 個別具体的な事件名の公表は差し控えさせていただきますが、私が扱った、会社の不祥事を追求して刑事処罰を科した事案について、警察及び検察がいかなる点に着目して捜査するのかについてご説明します。
(1)まずは、問題となった不祥事以外にも、過去にその会社で同種事例が発生してないか、この点を捜査します。いわゆる、『リスクの洗い出し』作業です。
この場合、マスコミ報道で問題となった事案はたったの1件であったとしても、今回の事件に至るまでに、いくつもの類似事例が発生しており、その原因を究明せずに放置したために、もっと大きな問題に発展して、ようやくそのうみが社会に知れるに至る場合がほとんどです。調べれば調べるほど、出るわ出るわ、ほんとにごったり出てくるのです。
(2)次に、その問題事例・リスクが、会社内のどの範囲の人に認識されていたかを捜査します。問題事案発生の際の事故情報通知制度をきちんと構築し、それがきちんと機能して、予防策を講じようとの環境が作り出されていたか、この点を調べるのです。
会社の担当者の勝手な判断で、「こんなことは大したことない」と、上部に通知されずに闇に葬られていることが多々あります。
素人感覚からすると、「不祥事を知らなければ、対応策を講じなくても文句言われないだろう」となってしまうのかもしれません。
社長さんが、なるべく事故報告が自分の所に来ないようにしている、という本末転倒なケースも多いです。確かに、昔は、そのような観点から、知っていなかったのだから社長には過失がないとして法的責任を免れるケースもありました。
しかし、現在では、知る努力を行っていたから知らなかっただけの人が、その努力をして情報通知制度を構築したが故に知ってしまった人よりも得をすることは許されません。
近時の裁判では、情報を知ることができる情報通知制度を構築していないこと自体が、コンプライアンス(内部統制)構築違反であるとして、例え知らなかったとしても、その知らないこと自体が過失であるとして、責任を問われるようになりました。当然の判断でしょう。
(3)そして、それまでの事故例を知っていたとすれば、その原因をいかに究明し、どのような予防策を講じていたか、について捜査します。
過去の発生事例を的確に把握し、その原因を究明して、それ以外に発生が予想される事例を予測し、これらを予防する対策を講じていたのに、それでも予測し得なかったような事例が発生したとすれば、それは、会社の誰もが責任を問われることは通常はないのです。防ぎようがなかった、つまり、「過失」がなかったと判断されるわけです。
ところが、問題が発生するような会社について捜査すると、このようなきちんとした対策を講じていない会社がほぼ100%と言って過言でないのです。
そのような対策をきちんと講じているところは、当たり前かもしれませんが、問題事例が発生することはほとんどないのです。何もしていない所に限って、問題事例が発生するのです。問題事例が発生した会社について、「たまたまそんなことが起きちゃったんだな。必要以上に叩かれて可愛そうだな。」という事例はほとんどありません。起こるべくして起こっているのです。
(4)ですから、これから健全な発展を目指そうとしている会社の皆さんについては、早急に
ア 上記「リスクの洗い出し」(多くの社員等からの聴取作業が必要でしょう)
↓
イ 原因の究明・同種事例発生の緻密な予測
↓
ウ その予防策の構築
の作業が急務です。
確かに、この作業には、時間とお金がかかるかもしれません。でも、費用をそれほどかけずにやる方法はいくらでもありますし、今後、これをやらないで会社に発生するかもしれない損害のリスクを考えたら、本当に保険的な意味合いの安い負担にすぎないのです。
この作業を行う際には、形だけの独善的で適当なものであっては困りものでほとんど意味がありませんので、危機管理に強い弁護士等の外部の専門家を交えて行うべきでしょう。
(5)上記ウの予防策については、様々なことが考えられます。
例えば、食品への異物混入が問題になったら、最新の金属探知器等を入れて予防する、というハード面での予防策を講じるのは当然ですが、「権限」と「責任」を明確にする権限規程等の社内ルールをきちんと整備することが重要です。
法的責任は、権限ある人にしか課すことができません。
何を申したいかと言うと、ほとんどの中小企業では、この権限規定が不明確で、実質は社長しか権限を握っていない、というようなケースが多いのです。
そうすると、何か問題が発生したとき、責任を問われるのは、仮に事情がよく分かっていないにしても、全て社長になってしまうわけです。
いくら部長や課長が防止の努力を怠ったとしても、防止措置を講じる権限が部長らになく、社長の一存でしかあり得ないとすると、基本的には、権限のない部長たちに法的責任を課すことができず社長の責任を問うことになる、つまりは会社の破滅へと突き進むことになってしまうわけです。
あらゆる事象についての、権限と責任の所在を明確にする、組織規定、職務権限規定、危機対応時のマニュアル・連絡網作り等が急務でしょう。
(6)また、上記の規定等を一旦整備したとしても、社会の情勢は刻々と変わり、また、日々あたらな問題が発生していくのが常ですので、外部通報窓口(弁護士等の外部専門家に依頼すべきでしょう)を設置するなどして現場の社員の意向に常に耳を傾け、必要の都度改善策を講じていけば、万全でしょう。
(7)以上に述べたような作業を実施し、少なくとも法的責任を問われることのない環境を整備して会社の質・モラルの向上を図って消費者の信頼に応えるべく、コンプライアンス委員会等の社内組織を作る企業が近時急増しています。
とは言っても、「コンプライアンス委員会作ってますよ」とアピールするお飾り的なものが多いのも実情で、そんなものでは全く役に立たないのです。
私の事務所では、絶対に企業の責任を問われることがないようにするため、リスクの洗い出し作業に一番力点を置いています。
そして、現実的に、防止可能なものと防止不可能なものとに振り分け、現実的に講じることができる予算の範囲内で、その道その道の専門家の意見をうかがいながら最善の予防策を講じることで、「やれる限りのことはやった」と自信を持って言える環境作りを提言しております。
事故や問題事例は、ある意味不可避的に生じてしまうやむを得ない面がありますが、重要なのは、「やれる限りのことはやったが、起きてしまった」と、「弁解(言い訳)」はなく、自信をもって言えるだけの、最大限の努力をすることなのです。
そう自信を持って言えるのであれば、会社が法的責任を負ったり、コンプライアンス違反として追求され、消費者・国民の信頼を失うことにはならないでしょう。
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